従軍慰安婦問題をめぐるNHKの特集番組に改変があったとして、取材に協力
した女性団体がNHKなどに損害賠償を求めた訴訟の控訴審口頭弁論が21日、
東京高裁で開かれ、問題を内部告発したNHKの長井暁チーフプロデューサー
が「国会担当の局長から放送前日の試写後『(番組は)全然駄目だ。話になら
ない』と言われた」と証言した。番組は2001年1月30日に放送。証言に
よると、同月28日に編集責任者の教養番組部長から「これでいい」と了承を
得た。しかし翌日、安倍晋三内閣官房副長官(当時)への説明から帰ってきた
国会担当の局長(総合企画室)らに試写したところ、局長は番組内容を批判。
慰安婦の証言などに対し、具体的に修正個所を指示したという。この際のや
りとりについて、局長は国会答弁で「感想を言っただけ」と述べている。

 

公共性を問われるメディアであればこそ、あまりに偏向した内容の番組を流す
のを事前にチェックするのは当然である。裁判ごっこを公共の電波を使ってま
で流す必要などなく、さらに死者に鞭打つような有罪宣告など常軌を逸した内
容であるならなおさらではないか。それを改変せずして流そうとはそもそも無
理な話だ。第一、この長井プロデューサーは法廷で「信頼すべき上司から『政
治家が放送を中止するよう求めた』と聞いている」とあくまで伝聞情報にすぎ
ないと証言しており、不確かな情報であるのは明らかだ。政治家の圧力があっ
たと確実な証拠が無いまま、この問題をぶち上げた朝日新聞は事実上幕引きを
図ったこともあり、問題を提起した側が頬かむりすると言う珍妙な状態が続い
ているのである。

 

政治とNHKの距離を問うのであれば、この問題とは切り離して考えるべきで
はないか。あくまで今回の番組改変に関しては、番組内容に問題がありすぎた
から起きるべくして起きたことであって、何のチェックもされずに放送された
方が良かったとは絶対に言えない。問題を提起した側がこれを無かったことに
しようとすることの方が遥かに問題なのではないか。言論機関として、ペンを
へし折ったのだと見られたと思われても仕方あるまい。