戸川猪佐武氏の書いた「小説吉田学校」をもとにした「大宰相」という劇画が
ある。劇画故に非常に読みやすく、自由党に始まり保守合同による55年体制
の形成、自民党内の派閥抗争、そして政治家の腐敗へと、戦後政治を大雑把に
振り返るには十分役に立つ出来栄えだ。作画はさいとうたかをプロが担当し、
作画にやや難はあるものの、内容的には問題はない。

 

個人的には吉田茂を引き摺り下ろすために、あらん限りの権謀術数を駆使する
三木武吉の「活躍」が好きである。脳溢血の後遺症から半身に麻痺の残る鳩山
一郎を叱咤し、必ず首相にするという約束を果たした。さらに、癌に侵されつ
つも保守政党による安定的な国会運営を目指し、自由党日本民主党の保守合
同を成し遂げる。ここに至る過程で、政敵を口説き落とし自陣に引き入れてい
く策士ぶりにはほとほと感心する。

 

同じく戸川猪佐武氏は、上記の三木武吉に焦点をあてた「小説三木武吉」を書
いており、おそらく絶版であろうが古本屋で見付けたら手にとって欲しい。一
見ダーティなやり口も、信念がこもっていると妙な説得力を生むものである。
今ではこんな演説をしたら、落選は必至の面白いエピソードがあるので、それ
を紹介して今日は終わりたいと思う。

 

三木は香川選挙区の立会演説会で「ある有力候補は妾を4人も連れている」批判
が為されたのに対して、「正確を期するために、無力候補の数字的間違いをこの
席で訂正しておきます。妾が4人と申されたが事実は5人であります。もっと
もいずれも老來廃馬となって役に立ちませんが、これを捨て去るごとき不人情
三木武吉には出来ませんから、みな養っております」(以上、敬称略)