チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は20日、亡命政府がある
インド北部ダラムサラで、中国チベット自治区などでの暴動やチベット
題の打開のため「いつでも胡錦濤国家主席ら中国指導部と会談する用意が
ある」と表明した。ロイター通信などが伝えた。暴動の武力鎮圧に対する
欧米諸国など国際社会の対中批判を追い風に、中国政府と交渉に臨む意欲
を示したとみられるが、今回の暴動をダライ・ラマの支持者の犯行と非難
する中国側が応じる可能性はほとんどない。ダライ・ラマは「多くのチベ
ット民族が(独立という)非現実的な期待を持っているかもしれず、私に
は極めて慎重な判断が必要とされそうだ」と指摘、独立急進派の台頭に懸
念を示した。ダライ・ラマは中国政府などとの対話を通じ、独立ではなく
高度な自治を求めている。

 

中国にとってチベット問題は急所の一つと言っても良い。最初は些細なこ
とであっても、それが次第に大きなうねりとなって、今回のような暴動に
発展し、中国政府が弾圧する、と言った北京五輪を前にそのようなイメー
ジをもたれては、あまり都合が良くない。だが、ダライ・ラマと直接会談
することは、独立はともかくとして、高度な自治に関して交渉の余地あり
と言っているようなものであり、断固として拒否するはずだ。ただし、ブ
ラウン英首相が温家宝首相と電話で話した際に「チベット仏教最高指導者
ダライ・ラマ14世が独立を支持せず暴力を放棄するなら、対話に入る
用意がある」との立場を伝えたとされ、対外的には対話の可能性を示唆し
ているようだ。残念なのはねじれ国会のもと、与野党が不毛な争いを続け
ている我が国からは、中国に対する明確なメッセージが発せられていない
ことだ。まるでチベットの動乱が無かったかのように、ものの見事にスル
ーしているのは自由主義国としての立場を損なっているのではなかろうか。