宮崎県の口蹄疫問題で、発生地から半径10キロ〜20キロ圏の「搬出制
限区域」での対策が進んでいない。19日に公表された政府の総合対策で
は、この区域の全家畜を1週間以内に食肉加工して出荷することで、「家
畜の空白地帯」を作ることがうたわれていた。だが、区域内には牛の加工
場はなく、法律上、区域外には搬出できない。農林水産省では、発生地に
近いため閉鎖した加工場を特例として再開させることで対応したいとして
いる。同省によると、この区域には、牛1万6000頭、豚1万5000
頭が飼育されている。赤松農相は、ワクチン接種などの対策を示した19
日の記者会見で、「対策の一番のポイント」として、この区域を「牛や豚
が一頭もいない緩衝地帯にする」と表明していた。対策は、発生地から半
径10キロ圏内の「移動制限区域」では、全頭殺処分を前提にワクチン接
種を行う、その外周の「搬出制限区域」では、すべての牛と豚を1週間以
内に食肉加工し、その後、一定期間、新たな畜産を行わないようにすると
いう内容。しかし、実はこの区域内にある加工場は、北部の日向市内にあ
る1か所で、処理できるのは豚だけ。1日の処理頭数は700頭程度で、
仮に連日稼働させても、目標の1週間では4900頭しか処理できない。

 

これだけ大規模に口蹄疫が蔓延していると、対応が追い付かないのは分か
るが、やはり付け焼刃と言わざるを得ないだろう。道路事情が良いとは言
えない宮崎県で、移動制限食区域・搬出制限区域を設けられている中、加
工場へ移動させるのは相当な困難を伴う。搬出制限区域で子牛や母牛を飼
畜産農家は「国の政策は矛盾だらけ」と批判し、「牛の加工場が再開さ
れても、処理能力からみると、地域内の牛をすべて出荷するには1年以上
かかる」と話している。農水省幹部は「現実的には『焼け石に水』かもし
れないが、少しでも対象地域から感染の危険を減らしたかった」とし、家
畜の空白地帯を作る構想自体が無理があったのではないか。むろん農水省
の計画通りには進んではおらず、該当の区域には牛1万6000頭、豚1
万5000頭が飼育されており、これを加工場で連日処理したとしても、
とても追いつかない数字である。畜産王国として知られていた宮崎が受け
る損失は、単に数字に表れるものだけでは無く、ブランドそのものを喪失
する可能性すらあるのだ。危機感を憶えるのは当然ではなかろうか。補償
でカバー出来ないものがあまりに大きいのだから。